田頭拓己のブログ

田頭拓己のブログ

一橋大学大学院経営管理研究科専任講師。実証的なマーケティング研究。マーケティングに関する小咄や日々の出来事を記録します。

ブランドについての基礎的なお話

本ブログでは、マーケティングに関する与太話、論文レベルの専門的な話や、大学学部講義に相当する内容の話をざっくりと紹介していきます。初回の投稿である今回は、マーケティングの専門家に限らず、多くの人が日常的に使う言葉でもある「ブランド」について基礎的な説明をします。

ブランドとは

 「ブランド」という言葉を聞いて何を思い浮かべるでしょうか?日常的に「ブランド品」という言葉を用いる際にはルイ・ヴィトンエルメスといったラグジュアリーブランドを指すことが多いのでは?しかしながら、ブランドという概念は何も高級品に限ったものではありません。世界で最も有名な外食チェーンであるマクドナルドや、そこで販売されているコカ・コーラもブランドとして理解することができます。

 では、ブランドとはどういったものなのでしょうか。この問いに簡潔に答えるならば、ブランドとは製品や企業を識別できるように付与された名称やマーク、デザインといった言語的・非言語的な特徴と言うことができます。American Marketing Association (AMA)はブランドを「ある売り手の財やサービスを他の売り手の名前のそれとは異なるものと識別するための名前、用語、デザイン、シンボル、およびその他の特徴」と定義しています(池尾等, 2010, p.414)。

 この際に強調したいのは、「異なるものと識別する」のは他ならぬ我々消費者であるということです。つまり企業の立場に立てば、自社製品は他社のものとは異なるのだということを消費者に認識して貰う必要があります。そのため、ブランド形成が企業にとって重要だが難しい課題になるのです。

ブランド形成と重要性

 先述のように、ブランドの形成に消費者の消費者に他社との違いを識別してもらうためのブランドを形成するためには、名称やマークを付与すればよいというわけではありません。消費者の特別な需要を捉える特徴を持つ製品開発や、その特徴を広告することが必要になります。特に、ブランドの形成においては消費者の認知が重要であるため、何よりもまず、当該ブランドが周知されている必要が出てきます。そのため企業は、様々なマーケティング要素(製品、価格、流通、プロモーション)を駆使することで、消費者の製品への特別な評価を得るように努力する必要に迫られるのです。

 では、ブランドを構築することが企業にとってどのような便益につながるのでしょうか。ブランドによる便益の源泉は、ブランドという情報が消費者の製品に対する評価を(良い意味で)ミスリードさせることだと考えられます。極端な例として、有名ブランド企業と無名な企業が販売している製品の品質に実際にはそれほど差がないにも関わらず、消費者が有名ブランドについて特別に好意的な評価を持つような場合を考えてみて下さい。これは、実際の品質ではなく、ブランドという情報が消費者が知覚する品質評価を歪めていると理解できます。

 このときブランドを形成している企業は、実際の品質には差がないにも関わらず、製品差別化と同様の利益を得ることができると考えられます(製品差別化については講義ノート1.5節を参照してみて下さい。気が向いたらブログ記事にもします)。そのため、ブランドは企業に対し経済的価値をもたらす無形資産として捉えられることもあり、このような無形資産としてのブランドは「ブランド資産」と呼ばれます。このようなブランドの重要性についての説明は、日本人にとっては「のれん」として馴染みのやすい考え方ではないでしょうか。

ブランドの模倣困難性

 これほどまでにブランドが重視される理由の一つが、ブランドの模倣困難性にあると考えられます。模倣と聞くと、某国のなんちゃってドラえもんや、フランクミューラーに偶然よく似た某腕時計等のようにネガティブなイメージを持っている人も多いかもしれませんが、ビジネスの世界では決して珍しいことではありません。日本市場においても、様々な家電メーカーによるロボット掃除機の製造・販売や、合格祈願のキットカットに追随したカールの(ウ)カール等、機能的・非機能的どちらの側面についても模倣に関する例が頻繁に観察できます。

 しかしながら、ある企業がブランドを形成し、競合がそれを模倣しようと試みても、同じようなブランド価値を短期間で獲得することは困難です。それはブランドの形成が消費者の認知に依存しているという特徴に起因します。つまり、あるブランドを確立した企業の模倣をしても、同様のブランド価値を消費者に認知してもらうのは難しいため、ブランドは他企業にとって模倣困難であり、ブランドを形成した企業は持続的な競争優位につながると考えられてる。

 消費者によるブランドへの評価は、どのような素材でどのように生産されているか等の企業から提供される情報だけでなく、消費者が抱くブランドへのイメージや、「どのような人たちに支持されているブランドか?」ないし「このブランドを利用する人たちにどんな印象を持つか?」といったブランドから連想する様々な要素によって行われます。これは、ブランド形成の基礎が消費者の認知にあるためです。つまり、ブランドに対する認知や評価はメーカーの意思とは別に消費者間の相互作用によって生成されることがあります。あなたも「有名人の〇〇が使っていた」や、「友人が持っている」といった企業が提供している製品そのものの特徴とは関係ない要素によって、なんとなくそのブランドに対して好意的になったり反対に非好意的になったりした経験があるのではないでしょうか。

まとめ

 これまで、ブランドに関するざっくりとした紹介してきましたが、ブランドは、消費者が企業や製品の「言語的・非言語的」な情報に関連付けてイメージを形成し、そのイメージが消費者間である程度共通して好意的な評価に結びつけられる場合に形成されると考えられます。このような好意的な評価が、他のブランドから非代替的な需要をもたらし、価格競争を避けることによって企業に利益をもたらす源泉となりうるのです。しかし、どのように形成するのかという企業の方策に関しては、「消費者にどのように捉えられるか」という目標から逆算して決定する必要があり、非常に困難かつ成功に対する不確実性の高い取り組みになります。

 

参考文献

池尾恭一、青木幸弘、南知惠子、井上哲浩(2010)『マーケティング』、有斐閣